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2017年06月21日

嘉次と馬 ①

空梅雨だと油断していたから、ここ最近の雨の仕事には時々うんざりしていた。でも、雨は嫌いじゃない。ベランダに干した作業服は黒い雨を吸い込んでハンガーの首を重たく吊っている。知らないふりをして晴れるのを待っていたが、午後になって結局は洗濯をやりなおした。経年劣化して色褪せたプラスチックの蓋をカタカタ鳴らしながら小さく震えているこの洗濯機は一番上の兄の祖母が亡くなった時から私のところへたどり着いた。そして、今はベランダで枯れかけた父の残したクロトンの鉢と一緒に雨に濡れている。今日の予定のいくつかは突然の雨で延期か中止か変更になった。そうやって大袈裟に僕は気まぐれな性格を時々雨のせいにする。雨のせいにしてから考える。雨は嫌いじゃない。と自分に言い聞かせたその理由を考える。それから間もなくたどり着く。灰色の雨雲は懐かしくて淋しい風景を思い起こしてくれると信じていること。小学6年生の時、音楽教室から眺めた灰色の空は僕の内面を覗き込んで山の向こうへ去って行ったが、静かなやさしさを残してくれたこと。静かなやさしさは無色だったがそれを運ぶ風はたしかに青みを含んだ灰色だったこと。それから、また、たどり寄せる。一瞬一瞬の時の狭間を叩く雨音は、祖父母のトタン屋根の下で眠った幼少の時を思い起こす。深夜、畳の間に響く古時計の音は無情に感じたが、その半面、祖母の香りを吸い込んだ薄手のブランケットがだんだん輪郭を与える暗闇の中で僕らを包み守ってくれたこと。

アコークロー。雨靴を履いて原付に跨ればアスファルトに靴底をなぞらせて水たまりを切りながら走った。すかさず柔らかな摩擦を感じ取った。一瞬水の上を飛ぶ感触を。



Posted by Joe Yamaneko at 19:10│Comments(0)
 
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